Vol.69 糖尿病治療薬メトホルミンとバイアグラ

糖尿病患者さんにEDが多いことはコラムにも書いています。原因は、動脈硬化が進行することはもちろんのことですが、血管からの一酸化窒素(Nitric oxide: NO)が減ることも大きな原因と言われています。
NOは強力な血管拡張物質で、その働きはサイクリックGMPという物質を作って血管や組織を弛緩させるというものです。バイアグラ・レビトラ・シアリスなどのED治療薬はサイクリックGMPが酵素に分解されるのを防ぐので、結果としてサイクリックGMPが増加して血管拡張作用を発揮します。特に陰茎の血管に集中的に作用するため勃起しやすくなるわけです。ED治療薬はNO自体の量も増やすと言われています。
さて、糖尿病患者さんの治療薬にはインスリンの他に、膵臓からのインスリン放出量を増やすSU剤というものなどが有名ですが、現在はメトホルミンという薬がかなり注目されているようです。糖尿病にはインスリンがあまり作れない1型と、インスリンは作れるけれど効き目がよくない2型に分かれます。メトホルミンはインスリンの効き目をよくする作用があり、2型糖尿病の患者さんに有効です。太りにくい体質になるうえに食欲が減るなどの作用もあるので、考え方によってはダイエットに使えそうですが、そのような適応はありません。しかし、メトホルミンは心血管系イベントの予防効果や癌抑制遺伝子への影響など様々な副次的な効果が期待されている薬です。
このメトホルミンのEDへの効果を調べた論文があります。
タイトルは「Addition of Metformin to Sildenafil treatment for Erectile Dysfunction in eugonadal Non-diabetic men with insulin resistance. A prospective, randomaized, double blind pilot study.」長いですね…
Journal of Andrologyという雑誌に2011年10月に掲載されています。
非糖尿病患者さんだけどインスリンが効きにくくてEDがある人達に、バイアグラだけではなくメトホルミンも併用してみました、というタイトルです。
インスリンが効きにくいのに、糖尿病ではない?
なんだか矛盾しているように思えますが、太っている人は基本的にはインスリンが効きにくいのが普通です。これを「インスリン抵抗性」と言いますが、これだけでは即、糖尿病とはなりません。なぜなら効きにくい分、膵臓で余計にインスリンを作れば、血糖値は見かけの上で正常範囲内に収まります。しかし、このような膵臓の頑張りがずっと続くわけではありませんので、インスリン抵抗性が増したり膵臓がくたびれてしまうと血糖値が上昇し糖尿病となってしまいます。
この研究では、インスリン抵抗性は増加しているけれど糖尿病にはなっていないED患者さんがバイアグラで治療するだけでなく、メトホルミンを併用した場合どうなるかを調べています。二重盲検での前向きランダム化試験という信頼性の高い実験法を採用しており、
対象の患者さんたちをランダムにバイアグラ+メトホルミン、バイアグラ+偽薬に分けて、その影響を調べています。
気になる結果ですが、メトホルミン群は偽薬群に比べて明らかにED症状や、バイアグラの効きにくさが改善したというものでした。インスリン抵抗性が改善したのは言うまでもありません。
インスリン抵抗性が高い状態というのはNOの産生が低下している状態なので、メトホルミンによりその状態が改善すれば、NOに依存するバイアグラの効果は高まるというわけですね。
肥満があって、ED治療薬が効きにくいような人にとってはメトホルミンの併用というのもED治療の一つの選択肢になりうると言えます。実際に、そのような治療を行っているところはないと思いますが…
ただし、インスリン抵抗性は痩せることで改善しますので、糖尿病予防も兼ねて、まずはダイエットするのが一番だと思います(笑)