韓国の大統領府でバイアグラを大量購入したのが問題になっているそうです。
ニュースサイトには朴槿恵(パククネ)大統領が今年5月にアフリカを歴訪した際、「(随行職員の)高山病の予防、治療のために購入した」と説明したようです。
なかなか刺激的なニュースです。
高山病にED治療薬であるバイアグラが効くのかということを考える前にまずは高山病について説明しましょう。
そもそも高山病とは高所における酸素濃度低下により引き起こされる病気です。
特に肺や脳などに影響を引き起こします。
軽めの高山病では頭痛、疲労、めまい、吐き気などの症状が起きます。
重症の高山病では肺で低酸素による肺動脈圧の上昇が間質性および肺胞性の肺水腫を引き起こし呼吸困難になります。脳でも同様に脳浮腫(脳のむくみ)により錯乱、意識障害などが生じることがあります。
高山病の治療としては下山する、酸素を吸うなどがありますが内服薬としてはアセタゾラミドが最も有名です。
ダイアモックスという商品名でも知られるこの薬は炭酸脱水素酵素阻害薬であり体の中を酸性側に傾けます。
高山病では過換気になるため体はアルカリ性に傾いているためそれを中和することで症状を改善します。
登山の前日から内服することで高山病予防にも使えます。
その他に、ステロイドやニフェジピンなどの降圧薬の使用も報告があります。
そしてバイアグラやシアリスも高山病に使用されたという報告はあります。
ではバイアグラは本当に高山病に効くのでしょうか?
バイアグラやシアリスは肺血管抵抗を下げる作用があるため肺高血圧症という病気の治療薬としても実際に市販されています。
高山病では低酸素性肺血管収縮(HPV: Hypoxic pulmonary vasoconstriction)という現象により肺高血圧になっています。
つまり肺高血圧の治療という観点からだとバイアグラの使用は理にかなっています。
では文献的考察を加えてみるとどうでしょう?
Pubmedからいくつか文献を調べてみました。
まずは2013年のMeta-analysis of clinical efficacy of sildenafil, a phosphodiesterase type-5 inhibitor on high altitude hypoxia and its complications. という論文では過去の論文を調査してバイアグラの高山病に対する有効性を検討しています。
結果としては確かに数値としては肺高血圧は改善するのですが体の酸素飽和度は改善させないし、高山病の症状も改善させなかったということです。つまり高山病に対するバイアグラの有益性は認められませんでした。
また、Sildenafil citrate for the prevention of high altitude hypoxic pulmonary hypertension: double blind, randomized, placebo-controlled trial. という論文ではバイアグラを使用群の方がプラセボ群よりむしろ高山病の症状が悪くなったと書かれています。
このような論文から考えるとバイアグラで高山病予防や治療というのは一般的ではないと言えます。
普通に考えればアセタゾラミドを選択するべきでしょう。
韓国の大統領の場合、他にも大きな問題がありすぎてついでに叩かれている感もありますが、バイアグラを高山病予防や治療のために購入したというのは若干苦しい気がします。
いずれにせよ今回のニュースで誤解が起きるといけませんのでコラムで取り上げてみました。