心筋梗塞とEDの関係は以前から知られています。陰茎の動脈は非常に細いので動脈硬化が始まると、最初に影響を受けやすいためです。その結果、EDの症状が出始めた2~3年後に心筋梗塞を発症するリスクが上昇すると言われています。EDは心筋梗塞のサインである可能性があるので注意が必要です。
狭心症や心筋梗塞とは心臓にある冠動脈という血管が血栓で詰まったり狭くなったりすることによって起きます。治療法は様々ありますが、カテーテルを使って詰まった部分をバルーンという風船を使って広げたり、網目状の金属で出来たステントというものを入れて広げたりする経皮的冠動脈形成術(PCI)という方法がまず一つあります。
それ以外では血の塊である血栓を溶かす血栓溶解剤を注射して詰まった冠動脈を再開通させる、血栓溶解療法というものがあります。
この治療法を比較すると、概ねPCIの治療成績が良いことが多いと言われています(詳細は省きます)。
では心筋梗塞と関係の深いEDに、心筋梗塞治療法の違いが影響を与えるのでしょうか?このような疑問を解消するために書かれた医学論文があったので紹介します。
「Comparison between primary angioplasty and thrombolytic therapy on erectile dysfunction after acute ST elevation myocardial infarction.」というタイトルでAsian Journal of Andrologyという雑誌に2012年7月に掲載されています。この研究では心電図でST上昇型の心筋梗塞に初めてなった患者さんの中でPCIと血栓溶解療法をそれぞれ受けた前後でのEDの割合を調べています。ややこしい表現ですが、要は治療を受けた前後でED患者さんがどれくらい増えたかを調べて比べています。
その結果ですが、驚くべきことに血栓溶解療法を受けた患者さんは治療前に35%だったED患者さんの割合が治療後に81%まで上昇していました。心筋梗塞発症を境に46%もEDを訴える患者さんが増えたのです。それに比べPCI治療群では治療前に20%だったED患者さんが治療後では56%と低めに抑えられていました。統計からもPCIが血栓溶解療法よりEDを起こしにくい心筋梗塞治療法である可能性が示唆されます。ただ、心筋梗塞発症を機にこれほどEDが増えるということ自体もかなり驚きですが…。
EDは生活の質に影響を与える問題です。もちろん、EDに対する影響で心筋梗塞治療法を選択することはありませんが、その後の人生を考慮すると大事な問題と言えます。
治療法の種類によってEDへの影響に差が出る理由は完全にはわからない部分もありますので、今後の継続した研究を期待しています。
この論文の弱点としては、男性ホルモンであるテストステロンの血中濃度が測定されていないことと研究対象が少ないことが挙げられています。テストステロンとEDの関係については、またコラム内で触れたいと思います。